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観光立国の切り札になり得る日本の食文化の一つである弁当を、英語を使って外国人観光客に紹介できるようにする。
1,単元について 2,TOSS型英会話と状況設定 3,本時について
1,単元について
観光立国の切り札になり得る日本の食文化の一つである弁当を、英語を使って外国人観光客に紹介できるようにする。
貿易立国から観光立国へ。観光は日本を、地域を強くする。中でも観光における食のウエイトは高い。
多くのドライブイン、高速道路のサービスエリアやパーキングエリア、「道の駅」や「里の駅」には飲食施設があり、
旅行客にとって憩いの場になっている。
その飲食施設では、オリジナルメニューを開発したり、郷土料理を取り入れるなど、観光客確保のためにさまざまな工夫をこらしている。
食は各々の地域の伝統・文化・産業を内包していると同時に、地域観光をアピールする上での基本戦略になり得る。
日本の食文化の一つに弁当がある。外国では日本食ブームになっていることもあり、外国人の弁当への関心も高い。
外国人を観光のターゲットにする場面の一つとして、本時は弁当を外国人に紹介する、というダイアログを扱うことにした。
2,TOSS型英会話と状況設定
英語の学習で最も楽しいのは「自分が覚えた英語が使える!」と実感できる時である。
そのためには「この表現は実際に使えた」「英語で会話を続けることができた」という喜びを味わわせる場面が必要である。
具体的には、
英語を話せた時
である。
高校入試を見据え、文法シラバスで教える従来の中学校英語教育では、文の構造や文法などの知識や理屈を教え込む場面は多い一方、
英語を使って誰かとコミュニケーションを行うという授業パーツは多くなかった。
中学校、高校と6年間英語を学んでも、なかなか英語を話せるようにならない。
私が教えた子どもたちも、テストの点は取れてもALTと10秒尾会話が続かない、というケースが多かった。
今思えば「話す」ための活動が少なかったことももちろんだが、「聞く」→「読む」→「書く」→「話す」という風に、
人間の言語習得過程と全く異なる指導をしていたのだ。内部情報のないままの「読み書き同習」。子どもに負担の大きい指導であった。
TOSS型英会話指導はどうか?向山浩子氏によると、TOSS型英会話の基本のゴールは
というシンプルなものである。
これは人間の言語獲得の歴史に沿っている。
逆に言えば、私のとってきた指導も含め、今までの英語教育は言語獲得の歴史を無視していたとも言える。
脳科学の面から、向山氏は著書<TOSS英会話指導はなぜ伝統的英語教育から離れたか>で、次のように述べている。
読み書きをする時、ヒトの脳は、予め入力されているはずの音声言語パターンを、脳内で探すのである。
音声言語のパターンが見つかれば、「これだ、これだ!」という具合に音声言語に読み言語が貼り付けられて、理解がとても楽になるのだ。
脳機能学者であり、計算言語科学者でもある苫米地英人氏も、「英語脳を作る」上で同趣旨のことを著書で述べている。
機能脳科学から見たときに、日本の英語教育がやっている「文法」から学んでいる方法は完全に間違っているのです。
私たちが日本語を学んだように、「見る・聴く」から始めなければ、言語をマスターするのは難しいのです。
<英語は逆から学べ>
(下線は首藤)
まず、音声を導入する。
中学英語でもできるのか? 向山浩子氏は、中学でTOSS型英会話指導が行われる基本パターンを次のように書いている。
中学でも、最初は文字なしに耳で聞かせ、(英文を読ませず)、実物や絵などで意味理解させ(訳させず)、
適切な応答を口頭でさせることこそが、ループ形成学習であり、英語脳回路の育成である。
徳島の小学校でTOSS型英会話を教える野網佐恵美氏。
年間35時間(週1時間)中で、野網氏が教えた子どもは文法的に難しいダイアログでありながら、4文以上の会話を行う。
さらに、野網氏が指導して中学校に上がった子どもたちが「読む、書く」ことがすごく楽だった、という感想を出している。
この2年間、本校生徒にもTOSS型英会話を、授業の最初の10~15分間に導入している。
導入した成果がいくつか出ている。
@ 県下学力テストの英語で、リスニング問題の平均得点が8割を越えた。今年度本校に赴任してきた教諭が驚いていた。
A 同学年の他校の子どもと比べて、音読で声がよく出ている。
B 文字認識が苦手なディスレクシアの子ども(ひらがなが書けない。
黒板の視写ができないIQは70)が、ALTとの会話テストを受けた。
30秒間に6つのダイアログで問答ができた。
C 3年生の基礎クラスの子どものテスト平均点が、標準クラスの子どもに近づいた。
「なぜかわからないけど、テスト中に答えが思い浮かんだ」と、ある子どもが話してくれた。
音声を文字に結びつける指導法はまだ模索中だが、TOSS型英会話指導の効果は確実に出ていると思う。
TOSS型英会話指導法の中心は「ダイアログ指導」。 しかし、忘れてはならないものがある。
それは状況設定。 野網佐恵美氏は状況設定について、以下のように書いている。
1,状況設定とは
どんな内容の会話(ダイアローグ)をしているか、訳さずに絵や映像と英語の音だけで直感的にわからせることである。
<TOSS英会話セミナー 野網佐恵美氏レジュメ集>
つまり
@ 状況を設定 して、その状況の中で
A 繰り返し、対話問答 の体験をさせる。
B 対話の相手もいる ように設定する *下線は首藤による
私の授業で状況設定がわかりにくい会話を行った時、子どもの声は小さくなった。
中学英語教科書の新出ダイアログを、子どもに身近な話題に変える必要性を感じている。
弁当を扱っている本時のダイアログは身近に使える場面が存在する。
TOSSが進める「まちづくり教育」を中心に、いくつかの教育分野と「弁当について紹介する」いう題材との関わりを考える。
(1) 「まちづくり教育」との関連
どの地域にも地域独自の文化がある。 そこに外国人観光客がやってくる。 私の勤務校区にも外国人が住むようになった。
町のいろいろな施設、食べ物や特産物などについて尋ねられる状況も出てきた。
しかし、本校のある子どもは近づいてくる外国人に気づいた途端、その場を離れたという。
外国人の質問に対し、逃げるのではなく、積極的に答えようとする子どもであってほしい。
「まちづくり」に関して言えば、施設建設などのハード面には子どもは手を出しにくいが、地域案内などのソフト面では活躍が大いに期待できる。
これらは教育を通して、大いにレベルアップが期待できる要素である。
英語を学んだ子どもが地域のボランティア観光ガイドとなり、旅行に不安な気持ちを持っている外国人旅行者を積極的にサポートし、
住む人のよさや食文化をはじめとする地域文化を、英語を使って発信できれば、子どもでも「まちづくり」に参加できることになる。
ダイアログに弁当という食文化の一つを扱うことで、地域の魅力に気づき、
「住んでよし 訪れてよし」の「まちづくり」に参加できる中学生を増やしたい。
「まちづくり教育」を中心とした各種教育と英会話との関連
【まちづくり教育】とは、どうしたらまちがより魅力的になるか、子どもたち自身で考える力を身につけるための教育 (重徳和彦氏)
【まちづくり教育の重要ポイント】
向山洋一氏(教室ツーウェイ2002.12月号臨時増刊)
@ 参加させる授業を作っていく。
A 自分の町に誇りが持てるようにする。
B 学校と地域の結びつきを強化する。
C 町をデザインできる子どもを育てる。
D 総合的な学習の展開を「まちづくり」をキーワードとして考える。
E 地域の学校としてどのように取り組んでいくのかが重要なポイントとなる
(2) 観光立国教育との関連
観光立国は日本の21世紀の国家デザインである。 資源小国である日本は、国際社会の中で生きていくしかない。
観光立国教育は、日本の未来の光となる。 国際語としての英語を使うことで、世界中の多くの人たちとのコミュニケーションができる。
観光立国について言えば、英語は自分の住む地域に「誇り」を持った上で、地域文化を世界に発信できる手段になり得る。
2003.4.24『観光立国懇談会報告書』に次の一文がある。
日本ブランドを発信するに当たっては、訪日可能性のあるターゲットに焦点をあて、アピールの印象度の向上を図らなければならない。
諸外国の例を見ても、トップセールスはアピール度の向上に極めて有効である。
日本のアイデンティティを確立した上で、その魅力を端的にパターン化し、システム化して、そのイメージを分かり易く表現する工夫が必要である。
また、自分の国や地域の魅力、自分そのものを語れる知識とコミュニケーション力を高める必要がある。
(下線は首藤)
日本ブランドの一つとして弁当が考えられる。
現在、観光に力を入れている多くの地域で、郷土料理をはじめ、地元の食材を生かした弁当が作られている。
弁当を観光の目玉にする地域もある。販売網や情報網、食べ物の保存方法が発達したことにより、
私たちは居ながらにしていろんな地域の弁当に接し、味わうこともできる。
弁当に興味を持った外国人に「この弁当の材料は何なの?」「どこの地域の名物なの?」などと質問された場合、
私たちは子どもたちが地域が誇る弁当を、自信を持って外国人に紹介できるようにしたい。
日本の魅力、自分の町の特色を分かりやすく、外国人相手に伝えるというコミュニケーションのために、
「国際語」となっている英語(英会話)の出番である。
(3)伝統文化教育との関連(日本の食文化である弁当について)
伝統文化教育の授業の意義を、向山洋一氏は次のように示されている。
日本の伝統文化を、教室で教えるのは大切だ。
伝統文化を教えると、子どもは自分の国に誇りを持つようになり、凛とした姿を見せるようになる。かしこく、知的になる。
伝統的文化は、ご先祖様からいただいたものだ。
幾百、幾千万人に、いや億をはるかに越える人々の知恵と経験の結晶である。民族の最高の知恵だ。 「教室ツーウェイ2005.10月号」
平成18年に交付された「改正教育基本法」にも、伝統文化に関する規定が盛り込まれている。
伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできたわが国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。
(改正教育基本法第2条5項)
2008年1月17日に行われた中央教育審議会でも「伝統や文化に関する教育の充実」が取り上げられている。
外国語においても、日本の伝統文化に関する題材を扱い、外国語で発信するということが考えられる。
伝統文化について考えたり経験したりする機会の減っている子どもたちに、日本の伝統文化のよさや価値、
さらにそれを継承・発展させることの大切さに気づかせる授業を行うことで、国際社会の中で日本を誇りに思えるようにしたい。
本時は日本独自の食文化の一つである弁当が題材である。
広辞苑では弁当は以下のように説明されている。
(1) 外出先で食事するため、器物に入れて携える食品。
(2) 転じて、外出先や会合などでとる食事 。
実用的な意味で言えば、外国にも(1)(2)の条件をを満たす「弁当」は存在する。
弁当に当たる英語はBox Lunch。 しかし、厳密には日本の弁当とBox Lunchは異なる。 その違いをいくつか列記する。
(1) 多種多様な箱。漆塗りの伝統的なものから、モダンなデザインのものまで、日本には数多くの弁当箱がある。
弁当箱そのものは食器として、または食物の保存容器として奈良時代に既に存在していた。
古くは乾燥米である御粮(みかれひ)を携帯する際に使っていた。
長い弁当箱の歴史の中で、日本には食料携帯という機能面だけでなく、見た目の美しさに気を配っている箱も多い。
中には美的見地からも価値のある箱がある。
(正倉院に納められている箱もある)明治以降に西洋の食事が導入された後も、それを取り込む形で弁当は発展を続けている。
(2) 日本人の遊び心が反映されている。中に仕切りをつけたり、盛りつけ方を工夫したりと、日本人は色彩りや見栄えも重要視する。
(3) 様々なカテゴリーに分類できる。(ちなみに日本では、弁当は中身を指す。器を指す場合は弁当箱という)
@ 中身による分類。 「のり弁当」「しゃけ弁当」「唐揚げ弁当」
A 行事による分類。 「花見弁当」「月見弁当」「幕の内弁当(観劇)」
B 購入場所による分類 「駅弁」「空弁」「宅配弁当」
C 容器の形による分類 「どか弁」「ドーム弁当」「松花堂弁当」
D その他 「愛妻弁当」等。
「弁当持ち、先に食わず」「弁当のおかずにたくわんを三欠け食べると身を切ると言う」など、弁当に関することわざもあるように、
長い間、弁当は私たちの生活に密着していた。
弥生時代には日帰り外出時の携行食としての弁当であったが、時代が下がるにつれ、 戦の際の兵糧としての弁当、
旅の携帯食としての弁当、行楽のための弁当というように、弁当はその形を変えながらも、民衆の間に広く普及していった。
日本の米はジャポニカ米という粘り気があって型に入れやすく、冷えても味がよく、時間が経っても食べられる米なので、
弁当に適しているとも言える。
30年前ほどにコンビニやフランチャイズ弁当店ができた後、様々な種類の弁当が開発された。
「外出先で食事をするために持ち歩く食べ物」から「外で買って持ち帰って食べるもの」へと、弁当も性格が変化しつつある。
しかし、歴史を振り返ると、春には花見、夏には花火、秋には虫聞き、冬には雪見という四季それぞれの遊びに
人々は弁当を携えていた場面が見られたし、芝居見物や汽車の旅から「幕の内弁当」「駅弁」などという弁当が生まれた。
弁当は日本の伝統行事や歴史を象徴するものの一つとなっているのである。
さらに言えば、現在観光に力を入れている地域で、自分たちが受け継いできた食文化を
「弁当」という形で次世代に残していこう、とする人々も多い。
弁当について学び、紹介することは、地域の伝統を考え、地域の未来を考えていく子どもたちを育てていくことにもつながるのではないか。
3,本時について
(1) 本時の内容
A : Let's have lunch.
B : OK.
A : Which bento do you wanna eat ?
B : I wanna eat "シャケ弁当".
A : "シャケ" ? What's that ?
B : It's fish.
(2) 内容
本時は「弁当を買う」という題材を通じて、外国人とも楽しく交流できるダイアログを扱う。
弁当は日本独自の食文化の一つである。現在、観光に力を入れている多くの地域で、地元の食材を生かした弁当が作られている。
その種類は膨大。弁当は観光客を呼び、魅力的な「まちづくり」を考える一つの要素になる。 題材に弁当を扱うことを通して、
日本の子どもたちが米食中心の食事に注目し直すとともに、日本の文化を世界に紹介しようとするきっかけともさせたい。
(3) 単元構成(下線部が新出事項)
本校が使っている教科書NEW HORIZON1年生に「Let's have lunch.」「All
right」が出ている。
4時間目には生産地の他に、弁当の値段を聞く、という発展学習も考えられる。
(4) 本時の学習内容
タイトル 「どの弁当を食べたい?」
対象 : 中学2年生 3時間目(4時間単元) 年間105時間中40時間目
ねらい : どの弁当が食べたいかの問答の後、その弁当の材料に対する質問に答えることができる。
新出事項 Which bento do you wanna eat ? / I wanna eat しゃけ弁当.
しゃけ? What's that ? It's fish. (この部分は野網佐恵美氏のダイアログを取り入れた)
本時に関わる既習事項 Let's have lunch. OK It's ~.
(私の場合、新出表現は教科書の進度に関わらず、向山浩子先生提案のB、C案で授業最初10分間のパーツに組み入れている。)
準備物 パソコン、プロジェクター、スマートボード、弁当の写真が載っているシート
(5) 授業の流れ
《参 考》
TOSS英会話セミナー指導案・レジュメ集 井戸沙織編、野網佐恵美編、厚 美佐氏指導案集
「TOSS英会話指導はなぜ伝統的英語教育から離れたか」「TOSS型英会話指導法の基本」
向山浩子 著 <以上の出版は東京教育技術研究所>
「脳の学習力」S.J.ブレイクモアU・フリス著 <岩波書店>
「心とことばの脳科学」山鳥重/辻幸夫著 <大修館書店>
「英語は逆から学べ」苫米地英人 <フォレスト出版>
「日本食生活氏」渡辺 実<吉川弘文館>
「日本食物史」江原絢子 石川尚子 東四柳祥子<吉川弘文館>
「日本人のひるめし」酒井伸雄<中公新書>
「講座 食の文化 食の情報化」石毛直道<農山漁村文化協会>
「食文化探訪」石毛直道<新入物往来社>
「食の文化史」神崎宣武<大月書店>
「食の文化史」大塚 滋<中公新書>
「食の地図」<帝国書院>
Maria Rodrigues Del Alisal論文「弁当と日本文化」
「現代観光にぎわい文化論」「観光マーケティング論」山上徹
「美の国日本をつくる」川勝平太
「大激震」堺屋太一 <実業之日本社>
「ソフトパワー時代の外国人観光客誘致」<同友館>
「観光につける薬」島川崇
「日本を変える観光力」堀川紀年
「新しい観光」須田寛
「現代観光とホスピタリティ」前田勇
「ホスピタリティと観光産業」塹江隆
「観光革命」額賀信
「黒川温泉のドン」後藤哲也
新学習指導要領
参考論文 : 戸井和彦氏、高山佳巳氏、杉山裕之氏、谷和樹氏、椿原正和氏、東田昌樹氏、松崎力氏他